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2015年3月29日 (日)

「下北沢ものがたり」を読んで

本書は「下北沢」にゆかりのある著名人へのインタビュー集。話題の中心は現在進行中の中心街の再開発と、かつての下北沢の街のはなし。

ところで、下北沢という地名は存在せず、小田急線・井の頭線の「下北沢駅」を中心とした繁華街と同心円状に広がる周囲の住宅街からなる、かなり便宜的な概念です。

本の21ページに地図が載っていますが、下北沢駅を中心として、井の頭線の池ノ上駅、新代田駅、小田急線の東北沢駅、世田谷代田駅を外周とする円の内側の地域が一般的な「下北沢」の範囲でしょう。

僕はかつて東北沢駅と池ノ上駅の中間に住んでいたので、上の定義では下北沢の外周部にいたことになります。東北沢や池ノ上方面から見ると下北沢の中心街はすり鉢の底のような位置にあって、行くには必ず坂を下らねばなりませんでした。街全体が円形劇場のような形をしていて、観客席にあたる小高い住宅地から坂の下の中心街を、舞台を見下ろすような感じで見ることになります。

これまでこのことを指摘した人がいたかどうか知りませんが、この地形的な構造が下北沢という地域の緩やかな一体感を醸し出している気がします。

 

作家のよしもとばななさんが面白いことを言っています。彼女は下北沢に住んで、町内会や八幡神社のお祭りにも参加するが、そのお祭りで鉢巻姿で神社への募金を募る老人たちとはお祭り以外では街中で全く出あわない、それが不思議でならないと。それに対してインタビュアーが、下北沢にいる人間は、いろんなレイアー(階層)に分かれ、日常は各自のレイアーの中で生きているからだろうとコメントしています。

 

僕は1988年に結婚してから1999年に横浜に引っ越すまでの11年間を下北沢で暮らしましたが、この本で紹介されている、バー、喫茶店、レコード店、ライブハウス、小劇場にはほとんど行ったことがなく、この本で下北沢を語っている方々とはあまり接点がありません。下北沢に住んで横浜に通勤する僕のようなサラリーマンは、この本に登場する人々とはまた別のレイアーに属するようです。

 

それでも土日には夫婦で坂をおりて下北沢の商店街で日用品を買い、外食をしました。日常は外周の観客席(住宅地)で暮らし、休日にだけ舞台の上(中心街)にちょっと出てみるようなものです。ディープな下北沢には無縁でした。

 

ただ一度だけ、スズナリで観劇したことがあります。小さな階段教室のような造りで、舞台と客席の距離が近かったのを覚えています。この本でも、俳優の榎本明さんが、自分がこれまで舞台に立ったなかで一番いい劇場だ、と語っています。舞台と観客席が近いので、役者と観客の間に一種の緊張感とともに一体感が生まれるのです。本多劇場やスズナリのオーナーである本多一夫さんによれば、スズナリはもともと本多劇場に出演する役者さんたちの練習場として計画したのだとか。この劇場はお勧めです。

 

下北沢の町のつくりは、スズナリのような小劇場のそれに似ている気がします。周辺の住宅地(客席)と中心の商業地区(舞台)の間にある、ひそかな親密さ・・・

 

ところで今では、下北沢には県外からも多くの若者たちが訪れてくるらしいです。また、16年前には見かけなかったバールズバーやキャバクラが増えたとか。街はどんどん変っていきますが、実は僕はもう何年も下北沢の中心街は歩いていません。横浜に住んでしまえば、行く必要もないので・・・

 

とはいえ、下北沢とは一生縁が切れないでしょう。僕の奥さんは下北沢そだちですし、僕にとっても第二の故郷のような街です。それで、下北沢がタイトルに入った本はつい手に取ってしまいます。

 

(余談)

下北沢は俳優さんや作家さんが多く住んでいる(いた)町としても有名になりました。義理の母は本書にでてきた榎本さんに街中でよく出くわすらしいです。僕の住んでいたところの近所のマンションには、かつて作家の伊集院静や、若い頃のキムタクが住んでいました。見かけたことはないけど。

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